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Q1 施設の特徴と急性冠症候群(ACS)患者さんの最近の傾向について教えてください。

小倉記念病院は、1982年に延吉正清名誉院長が日本初の経皮的冠動脈形成術(PCI)を成功させたことを契機に、現在に至るまで循環器医療の地域の核として心臓から末梢血管疾患まで包括的な治療を展開しています。救急医療においても救急告示病院として救急患者さんを積極的に受け入れ、循環器内科、心臓血管外科、脳神経外科を中心とした急性期高度医療の提供体制を整えています。
ACS患者さんの年齢層は、10~15年前は60代後半に集中していたのに対し、最近では高齢患者層と50代以下の若年患者層の両方が増加し、当院でも二極化の傾向が顕著になっています。若年層の増加は食生活の欧米化、生活習慣の乱れ、さらに糖尿病や高コレステロール血症といった代謝性疾患の増加が要因として考えられます。

Q2 ACSの患者像や治療の課題について教えてください。

ACSの患者像は年齢層によって異なります。若年層では糖尿病、高コレステロール血症、肥満といった代謝性要因を持つ方が目立ちます。一方、高齢者ではPolyvascular Disease(全身性動脈硬化性疾患)を呈することが多く、ACSは全身の動脈硬化の一表現に過ぎないケースが一般的です。糖尿病の罹患期間が長い患者さんや喫煙者は血管径が細く、太い動脈よりも末梢血管から障害が進行する傾向があります。
ACS治療の課題としては、迅速かつ効果的な治療が可能になったために以前より患者さんの再発予防に対する意識が低下していることが挙げられます。激しい胸痛を経験しても翌日には歩行退院できるほど劇的に回復するため、患者さんは「治った」と誤解しがちで、ACSが致死的疾患であることや再発予防の重要性が十分理解されず、治療や生活習慣改善への動機付けが十分形成されないことが多いのです。患者さんの理解や行動変容を促す効果的な方法は一人ひとり違うため、一様な解決は難しいのですが、当院では多職種が多方面からアプローチすることでこの課題に取り組んでいます。

Q3 ACS患者さんの再発予防のためのリスクファクター・疾患管理の実際について教えてください。

ACSの再発予防では、厳格な脂質管理を考慮しています。ACSの再発予防におけるLDL-Cの目標値は、本邦の『急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)』1)や『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』2)では70mg/dL未満を考慮するとされていますが、欧州心臓病学会/欧州動脈硬化学会の『脂質異常症管理ガイドライン』3)では超高リスク群は55mg/dL未満とされています(図1,2)。ACS発症早期から積極的に脂質低下療法を行いLDL-C値を管理することは重要ですので4)、当院では、LDL-Cを早期から管理するための院内フロー「Kokura Style」を作成しています。「Kokura Style」ではACS発症早期からスタチン・エゼチミブ配合薬による積極的な薬物療法を開始し、退院時に管理目標値(70mg/dL未満を考慮する)を達成できていない場合は PCSK9阻害薬の導入を検討します。
高血圧症についても薬物療法による積極的な降圧を実施し、糖尿病については心機能を考慮した薬剤選択を行います。
運動については、心疾患患者さんの場合は特に安全性が重要であるため、心臓リハビリテーションとして専門的アプローチを行い、適切な強度や量を設定して個別に指導しています。

*「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞(明らかなアテロームを伴うその他の脳梗塞を含む)」の4病態のいずれかを合併する場合に考慮する。

図1  国内外ガイドラインの脂質異常症の管理目標値

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図2  心血管イベントの発現リスクが高いと考えられる患者像

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Q4 ACS治療の更なる充実のために今後必要と考えられる取り組みについて教えてください。

当院は特性上、心疾患を発症した患者さんが来院されるため、現在二次予防に力を入れていますが、次のステップとしては一次予防に注力したいと考えています。生涯を通じて心疾患を発症させないような一次予防が目標です。そこで、今後は糖尿病、高コレステロール血症、肥満、運動不足など心疾患のリスク要因を持つ方々に向けた啓発活動を展開していきたいと考えています。

1)日本循環器学会 他 編:急性冠症候群ガイドライン2018改訂版.日本循環器学会他,2018
2)日本動脈硬化学会 編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.日本動脈硬化学会,2022
3)Mach F, et al. Eur Heart J. 2020; 41(1): 111-188
4)Nakamura M et al. J Atheroscler Thromb. 2021; 28(12): 1307-1322

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