パンくず
MS診断の基本となるマクドナルド診断基準
マクドナルド診断基準1)は、MRI所見を本格的に導入した多発性硬化症(MS)の診断基準であり、2000年以降国際的に用いられている。診断の基本は、臨床徴候、MRI、視覚誘発電位などによる、炎症性中枢神経脱髄病変の時間的多発性(DIT)および空間的多発性(DIS)の証明とオリゴクローナルバンド(OCB)による非免疫疾患の鑑別であり、一次性進行型MSは1年以上の慢性進行と定義されている。また、MSには確定的なバイオマーカーが存在しないため、他疾患の除外が極めて重要である。
MSと誤診された上位5疾患は片頭痛単独または他疾患との併発、線維筋痛症、非特異的神経症状とMRI異常、精神症状、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)と報告されており2)、誤診は稀ではないことから、非典型的所見の症例はマクドナルド診断基準の適用外とすることが推奨される。2024年のマクドナルド診断基準改訂は、2017年以降7年ぶり4回目の改訂であり、より早期の診断を可能にしつつ、誤診を防ぐための特異度向上策も組み込まれた3)。
2017年改訂マクドナルド診断基準の主なポイント
典型的CIS、DIS、髄液OCB陽性で診断可能(DIT不要):2017年改訂4)の最大の特徴は、DITが除外された点である(図1)。従来は、初回の臨床発作(clinically isolated syndrome:CIS)からMS診断に至るには、MRIまたは臨床経過でDITを確認する必要があった。しかし、多数の前向きCISコホート研究において、DISを満たし、髄液OCB陽性で他疾患の可能性が低い症例の大部分が時間経過とともにDIT基準を満たしていることから、このエビデンスを背景に、典型的CIS、DIS、髄液OCB陽性を満たし、より適合する他疾患が存在しない場合はMSの診断が可能になった。
MRI病変評価の拡大:DISやDITの評価には無症候性MRI病変のみを用いるのが原則であったが、2017年改訂では症候性・無症候性病変の両方が算入可能となった。例として、臨床症状と一致する脳幹や脊髄病変はDIS・DIT判定に含められる。ただし、視神経炎は例外であり、症候性であっても算入は推奨されない。
皮質病変の活用;DISにおける皮質/傍皮質病変の統合:従来のDISの証明には、脳室周囲、傍皮質、テント下、脊髄の4領域から2領域以上に病変を確認する必要があった。2017年改訂では皮質病変が正式に組み込まれ、傍皮質病変と同一カテゴリーとして扱われるようになった。この変更は2024年基準にも継承されており、皮質/傍皮質病変を一括してDIS判定に使用可能である。
一次性進行型MSの診断基準;2010年改訂版を継承:一次性進行型MSの診断要件は2010年改訂マクドナルド診断基準5)と同様であり、1年以上の再発に関連しない障害進行に加えて、脳室周囲、皮質/傍皮質、テント下のいずれかの領域に1ヵ所以上のT2高信号病変、脊髄に2ヵ所以上のT2高信号病変、髄液OCB陽性の3項目中2項目以上を満たすこととされている。
暫定的病態分類の特定:診断時の暫定的な病態分類(再発寛解型、一次性進行型、二次性進行型)の特定が推奨された。現時点で判別困難な場合も含め、診断直後から病態分類を併記することで、治療戦略の立案や長期的な病勢評価が容易になる。
2024年改訂マクドナルド診断基準の主なポイント
MSの長期予後改善には早期の診断と治療開始が不可欠であり、MSを示唆するradiologically isolated syndrome(RIS)からの治療開始が望ましい。2024年改訂マクドナルド診断基準3)では、特異度向上と早期診断の両立を目的として10項目が改訂された(図2)。中でも、以下の項目は2017年基準からの大きな変更である。
DIS領域への視神経の追加:これまでDISの証明に用いられていた脳室周囲、皮質/傍皮質、テント下、脊髄の4領域に、5番目の領域として視神経が追加された。
高特異度MRI所見の導入:診断精度の向上と誤診リスクの低減のため、脱髄性プラークの血管周囲特性を示すcentral vein sign(CVS)や慢性活動性脱髄病変を反映するparamagnetic rim lesion(PRL)など、高特異度MRI所見が新規マーカーとして導入された。
RISをMSと診断可能:RISを有する患者の半数はMSに進行し、リスク因子として若齢(35歳未満)、男性、髄液OCB陽性、脊髄やテント下の病変などが指摘されている6)。一方、RISの段階からの疾患修飾療法により、MSへの進行が予防可能との報告がある6)。これらを踏まえ、病変分布、髄液所見、特徴的MRI所見を満たす場合はRISの一部がMSと診断可能となった。
鑑別診断の強化:50歳以上、頭痛を伴う疾患(片頭痛を含む)、血管疾患、のいずれかに該当する患者に対しては、脊髄病変、髄液OCBやkappa free light chain(kFLC)陽性、MRIで6個以上のCVSの特定による診断確定が強く推奨された。
小児および思春期例に対する抗MOG抗体検査:小児および思春期例では炎症性脱髄疾患の半数は抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)に該当するため、抗MOG抗体検査が強く推奨された。
一次性進行型MSの診断基準:再発寛解型と一次性進行型のMSの診断基準には、単一の統一されたフレームワークを使用することとなった。2ヵ所以上の脊髄病変は、一次性進行型MSの診断におけるDISのエビデンスとなる。
診断ツールとしてのkFLCの採用:kFLCは髄腔内の炎症に伴って髄液中に増加し、OCBと同等の診断意義を有することから、kFLCをOCBの代替指標として使用可能とした。
本邦での運用上の課題と展望
今回の改訂により、MSの早期診断・早期治療の可能性が広がった。今後の課題としては、指定難病基準との整合性確保、高特異度MRI所見による診断普及、kFLC測定機器の導入体制整備が挙げられる。特に放射線科医との連携は不可欠であり、本邦においても、各専門領域の連携と検査体制整備を進めることで、2024年改訂マクドナルド診断基準を最大限に活用し、患者の長期予後改善に貢献できる診療が期待される。
参考文献
1) McDonald WI, et al.: Ann Neurol. 2001;50(1):121-127.
2) Solomon AJ, et al.: Neurology. 2016;87(13):1393-1399.
3) Montalban X, et al.: Lancet Neurol. 2025;24(10):850-865.
4) Thompson AJ, et al.: Lancet Neurol. 2018;17(2):162-173.
5) Polman CH, et al.: Ann Neurol. 2011;69(2):292-302.
6) Lebrun-Frenay C, et al.: Lancet Neurol. 2023;22(11):1075-1086.
ご所属、ご講演内容については2025年7月作成時点のものです