多発性硬化症の診断基準

多発性硬化症の診断基準

監修:東京女子医科大学 脳神経内科 特命担当教授 清水 優子 先生

    McDonald診断基準は、国際的に広く使用されている診断基準であり、MAGNIMSのMRI基準を取り入れ、空間的多発と時間的多発を証明することで診断を行う。

     

    MS診断の基本は、中枢神経における炎症性脱髄病変の時間的多発性および空間的多発性を証明し、他の疾患を十分に除外することです1)。McDonald診断基準(表22)は国際的に広く使用されており、より早期の正確な診断を目指し、空間的多発と時間的多発を証明するためのMRI基準を取り入れて作成されました2)。2001年に初めて発表されて以降、特異度を損なうことなく感度を高めることを目的に改訂が行われてきました2)

     

    【2010年改訂版】2)


    2010年の改訂ではヨーロッパ多施設協働研究グループMAGNIMSによるMRI基準が採用されました。(MAGNIMS診断基準のタブを参照)

    空間的多発性(表32)を証明するための基準がより簡素化され、また、無症候性の造影病変と非造影病変が同時に混在すれば1回のMRI撮像で時間的多発性(表42)が証明できることとなりました。この結果、臨床的に初発の段階(Clinically Isolated Syndrome:CIS)で、臨床的あるいはMRI上の再発が確認される以前であっても、一定のMRI基準を満たせばMSと診断することが可能です(表22)

    日本における『多発性硬化症診断基準2015(厚生労働省)』は、McDonald診断基準の「2010年改訂版」に基づいて作成されています。

     

    【2017年改訂版】3)


    2017年改訂版では、診断基準をさらに単純化し、診断感度を向上させるための改訂が行われました。

    主な変更点は、(1)典型的なCISかつ空間的多発性が証明された患者において、脳脊髄液に特異的な「オリゴクローナルバンド」の存在で時間的多発性が証明されれば、MSが診断できること、(2)MRI病変は症候性でも無症候性でも、空間的多発性・時間的多発性の証明に使用できること、(3)皮質直下または皮質の病変を、空間的多発性の証明に使用できること(表53)です。

     

    表2:McDonald診断基準(2010年版)2)

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    *1 多発性硬化症と診断するためには、他の疾患を完全に否定し、すべての所見が多発性硬化症に矛盾しないものでなければならない。
    *2 造影効果の有無は問わない。
    *3 髄液所見陽性とは、等電点電気泳動法によるオリゴクローナルバンドもしくは免疫グロブリンG (immunoglobulin G:IgG) インデックス高値をいう。

    2)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p311 2017年
     

    表3:空間的多発性の証明[McDonald診断基準(2010年版)]2)
    下記のいずれかを満たせば証明される。

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    *2 造影効果の有無は問わない。

    2)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p311 2017年
     

    表4:時間的多発性の証明[McDonald診断基準(2010年版)]2)
    下記のいずれかを満たせば証明される。

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    *2 造影効果の有無は問わない。

    2)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p311 2017年
     

    表5:McDonald診断基準(2017改訂版)の変更点3)

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    3) Oh J et al:Curr Opin Neurol 31(6): 752-759, 2018
    著者には、過去にノバルティスがコンサルタント料、講演料、謝礼を支払った者が含まれています。
     

    【Reference】

    1)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p101-104 2017年
    2)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p311 2017年
    3)Oh J et al:Curr Opin Neurol 31(6):752-759, 2018
    著者には、過去にノバルティスがコンサルタント料、講演料、謝礼を支払った者が含まれています。

    MAGNIMS診断基準は空間的多発に関するMRI基準である1)
    2010年改訂版以降、McDonald診断基準において、MRI基準のベースとなっている2)

     

    空間的多発のMRI基準として、以下のうち2つ以上を満たすことを提唱しています。

    • 3個以上の脳室周辺病変
    • 1個以上のテント下病変
    • 1個以上の大脳皮質または皮質直下病変
    • 1個以上の脊髄病変
    • 1個以上の視神経病変
       

    【Reference】

    1)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p101-104 2017年
    2)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p311-313 2017年

    本邦では、厚生労働省エビデンス班によって2015年に発表された診断基準(表1)1)を用いることが『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』で推奨されている。この診断基準は、McDonald診断基準の2010年版を一部改変したものである。

     

    表6:多発性硬化症診断基準2015(厚生労働省)1)

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    1)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p312-313 2017年
     

    【Reference】

    1)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p312-313 2017年

    MSを診断するためには、臨床症状、MRI画像、その他の検査を総合的に判断し、「鑑別診断」を行うことが重要である。

     

    MSとの鑑別診断が必要な疾患としては、①視神経脊髄炎(NMO)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)など、②腫瘍、梅毒、脳血管障害、頸椎症性脊髄症、脊髄空洞症、脊髄小脳変性症、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)関連脊髄症、膠原病、Sjögren症候群(SjS)、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、ミトコンドリア脳筋症、進行性多巣性白質脳症(PML)などがあります。

    MSを確定する単一のバイオマーカーは未だに知られていないため、臨床症状、血液検査、髄液検査、各種画像検査などを行い、国際委員会(National MS Society Task Force)の推奨するMSの診断に留意すべき徴候 “red flags”(表61)を検討し、体系的に鑑別診断を進めることが求められます。

     

    表7:多発性硬化症診断に際しての “red flags”1)

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    CADASIL:cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy
    NAWM:normal-appearing white matter

    1)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p315-317 2017年
     

    【Reference】

    1)
    日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p315-317 2017年


Source URL: https://www.pro.novartis.com/jp-ja/ns/ms/diagnosis/dc