
Q1 施設の特徴と急性冠症候群(ACS)患者さんの最近の傾向について教えてください。
高知市は高齢化が進む地方都市で、当院はこの地域における重要な急性期医療の拠点としての役割を担っています。循環器診療においては、血流予備量比コンピュータ断層撮影(FFRCT)の導入をはじめさまざまな先進的治療を提供できる体制を整えています。ACS症例は年間約330件あり、このうち約200例が緊急カテーテル治療を必要としています。当院のACS患者さんの平均年齢は約75歳と高齢化しており、病変が複雑でリスクの高い超高齢患者さんへのカテーテル治療も行わざるを得ない現状があります。
Q2 ACSの患者像や治療の課題について教えてください。
ACSの患者さんの多くは、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった疾患がリスクファクターとなっています。慢性腎臓病などの合併例も多く見られます(図1)。治療の課題としては、脂質異常症の管理が難しいことが挙げられます( 図2 )。脂質異常症は、症状がほとんど現れないため、糖尿病などと比較して患者さん自身はもちろん多くの医療者間でも「ACSにつながる危険な疾患」という認識が十分に共有されていないことがその理由の1つといえるでしょう。
図1 心血管イベントの発現リスクが高いと考えられる患者像

図2 二次予防高リスク患者群におけるLDL-C管理目標値達成率(N=33,850)

【対 象】
動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)高リスクで、2018年7月~2021年6月の間にメディカル・データ・ビジョンの診療データベースにLDL-Cの臨床検査結果が登録された18歳以上の患者183,145例。ASCVD高リスクは、狭心症(AP)、心筋梗塞(MI)、虚血性脳卒中(IS)、末梢動脈疾患(PAD)、糖尿病(DM)、慢性腎臓病(CKD)又は家族性高コレステロール血症(FH)のICD-10コード分類を含む請求が確認された者と定義した。
【方 法】
メディカル・データ・ビジョンの診療データベースを用いた横断的研究。日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版に従い、一次予防高リスク群[冠動脈疾患(CAD)の既往歴がないASCVD高リスク患者:LDL-C管理目標値<120mg/dL]、二次予防群(CADの既往歴があるASCVD高リスク患者:LDL-C管理目標値<100mg/dL)、二次予防高リスク群[二次予防群のうちFH、Index date12ヵ月以内に確認された急性冠症候群、合併症
(IS、PAD又はCKD)を有するDMに該当する患者:LDL-C管理目標値<70mg/dL]の3群に分け、LDL-C管理目標値を達成した患者の割合を調査した。
Mitani H, et al. J Atheroscler Thromb 2023; 30(11):1622-1634より作成
[利益相反]本研究はノバルティスから資金提供を受けました。著者のうち3名はノバルティスの社員です。
その他にノバルティスから謝礼金を受領した者が含まれます。
Q3 ACS患者さんの再発予防のためのリスクファクター・疾患管理の実際について教えてください。
脂質異常症の管理については、医療者間で認識を共有し治療の標準化を図るために院内でLDLコレステロール(LDL-C)治療強化フローを作成しています。これにより、スタチン最大耐用量、エゼチミブ、PCSK9阻害薬などを適切なタイミングで使用し、『急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)』1)や『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』2)でACSの二次予防における目標値として考慮されているLD L- C 70mg/dL未満*を目指します。高血圧症については、血圧手帳を渡し家庭血圧をつけてもらっており、多くの患者さんで管理できています。糖尿病の薬物療法では、腎機能を考慮した薬剤選択を行っています。さらに禁煙と心臓リハビリを含む定期的な運動も推奨しています。
*「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞
(明らかなアテロームを伴うその他の脳梗塞を含む)」の4病態のいずれかを合併する場合に考慮する。
Q4 ACS治療の更なる充実のために今後必要と考えられる取り組みについて教えてください。
心原性ショックを伴うACSは死亡率が高く、本邦における急性心筋梗塞(AMI)による心原性ショックで搬送された患者さんの30日以内の死亡率は42.3%という報告もあり3)、課題となっています。当院では、補助循環の導入や管理を進めるとともに、心原性ショックの兆候を見逃さず適切なタイミングで対応できるよう体制を構築しています。心停止の場合は体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた体外循環式心肺蘇生法(ECPR)を実施し、当院のプロトコールに基づいた対応を行っています。
今後は、このような重症ACSへの迅速かつ効果的な体制をさらに強化し、死亡率の低減に努めていきたいと考えています。
1) 日本循環器学会 他 編:急性冠症候群ガイドライン2018改訂版.日本循環器学会他,2018
2) 日本動脈硬化学会 編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.日本動脈硬化学会,2022
3) Matoba T, et al. Circ J 2021; 85(10): 1797-1805.