NEDAを日常診療にどう取り入れるか
Image
record_qol_part2_pc.png
Image
record_qol_part2_sp.png

MSの治療ゴール

これまで、MSの治療ゴールは再発抑制であったが、再発抑制だけではMS患者のADL、QOLの維持・向上は難しいことがわかり、障害進行を抑制することの重要性が明らかとなった。
ただし、全MS患者に盲目的に継続治療を行い障害進行を抑制することは現実的ではない。そこでTreat to Target(T2T)という概念が重要になる。T2Tは「目的達成に向けた治療」を指し、リウマチや炎症性腸疾患など、単純指標で治療目標が測れない疾患で用いられてきた。MSのT2Tとして「疾患活動性がない状態」を表すNEDA(no evidence of disease activity)がある。NEDA達成を1つのゴールとし、共有意思決定(SDM)を行うことが昨今の診療の中心になりつつある。
MSの障害は、再発による症状の蓄積(RAW)だけでなく、PIRAがより重要と考えられている。PIRAによる障害蓄積は経時的に増大し、5年以上の長期になると大幅に増大する(図11)。なお、PIRAを惹起する誘因はわかっていない。
NEDAは、2013年ごろから使用され始めており、すでに10年以上の歴史がある。当初、NEDAは「臨床的再発がない」「身体障害の増悪がない」「MRIでの活動性がない」の3点を満たすことが目標であった(NEDA-3)。最近ではMRIの普及もあり、「脳萎縮の進行が認められない」も含めたNEDA-4が主流になりつつある。

Image
img_kes_record_qol_part2-1.png
Image
img_kes_record_qol_part2-2.png

日常臨床におけるNEDA-3

NEDA-4の評価に必要なMRI検査を定期的に実施することは理想ではあるが、患者都合や施設の状況などもあり実臨床では難しい。EDSSの実施も時間的な制約もあり、年に1回などの頻度で実施するのが現実的と考える。
問診は病状進行を捉える機会でもあるため、仕事や家事、学業の状況を確認し、カルテに記入する。歩行時間や歩行距離については、家から最寄り駅まで、家からスーパーまでなどの、定期的に行く場所までの所要時間に変化がないかを確認したり、家族が同伴している場合は、家族にも聴く。このような取り組みがNEDA-3の評価として重要と考える。

脳萎縮の評価

MS患者は健康成人に比べ脳の萎縮程度が高い。健康成人は年率で0.4%萎縮すると病的と判断されるが、MS患者の萎縮率はそれよりも高く、clinically isolated syndrome(CIS)の段階から0.4%を超える萎縮が起きている2)
日常診療では、定期的にMRI検査が実施できる患者を対象に、3年、5年、10年などのスパンで、MRI画像を比較することで脳萎縮を検出できると考える。
日常診療で使用可能な脳萎縮の指標として、第三脳室幅、脳梁インデックス(CCI)がある。第三脳室幅は認知機能障害と相関し3)、CCIは罹病期間、EDSS、臨床表現型、T2病変負荷、全脳容積と関連するということが報告されている(図24)。CCIは、脳梁の長さと高さから数値として算出でき、日常診療範囲で運用できる。
NEDA-3とNEDA-4に予後予測能力の差があるのだろうか。MSの治療薬とNEDAについて検証したところ、NEDA-3とNEDA-4では予後予測能力に差がないことが報告されており5)、NEDA-3を活用した病状評価もこれまで通り重要といえる。
MSの認知機能評価に関しては、Brief International Cognitive Assessment for MS (BICAMS)やBrief Repeatable Battery of Neuropsychological Tests(BRB-N)などがあるが、時間的な制約もあり日常臨床ではSDMTが使用しやすい。

1)Portaccio E, et al. Brain. 2022;145(8):2796-2805.
2)De Stefano N, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2016;87(1):93-99. 
3)Benedict RH, et al. Arch Neurol. 2004;61(2):226-230.
4)Fujimori J, et al. Mult Scler Relat Disord. 2020;45:102388.
5)Rotstein D, et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2022;9(6):e200032.

ご所属、ご講演内容については2024年10月作成時点のものです


Source URL: https://www.pro.novartis.com/jp-ja/products/kesimpta/about/record_qol_02